糖尿病
ー症状・原因・食事・予防・治療を医療の専門知識に基づいて解説ー
本ページの要点
- 糖尿病は初期症状がほとんどなく、気づかないうちに進行する
- 進行すると失明・腎不全(透析)・心筋梗塞・脳卒中の原因になる
- 内臓脂肪型肥満、遺伝、食べすぎ、運動不足、ストレスなどが発症に関与
- 遺伝しやすいが生活習慣で十分に予防できる
- 治療の目的は血糖値を下げることではなく「重大な合併症を予防すること」
- 食事療法・運動療法・薬物療法を組み合わせることで改善可能
- 生活改善によって「薬が不要になる」ケースも多い
目次
糖尿病はなぜ厄介なのか
□ 初期はほとんど症状がない
糖尿病の初期には自覚症状がほぼありません。 この「症状が出にくい」ことが糖尿病の最も厄介な特徴です。
□ 血糖値が高いまま放置すると出てくる症状
- 喉が渇く
- 尿の回数が増える
- 体重が減少する
- 疲れやすい
- 手足のしびれ
□ 末期に起こり得る深刻な状態
- 糖尿病網膜症 → 失明
- 糖尿病性腎症 → 腎不全・透析
- 神経障害 → 足のしびれ・壊疽(黒くなって腐ります)
- 心筋梗塞・脳梗塞
放置すると取り返しがつかない合併症につながるため、早期治療が重要です。
どんな人が糖尿病になりやすいのか
糖尿病は、特定の人だけが突然発症する病気ではなく、 生活習慣や体質が長年積み重なることで発症リスクが高まる生活習慣病です。 特に2型糖尿病は、日々の食事や運動、体重管理と深く関係しています。
□ 主な原因
糖尿病の発症には、以下のような要因が複合的に関与すると考えられています。
- 内臓脂肪型肥満
お腹まわりに脂肪がたまることでインスリンの働きが低下し、血糖値が上がりやすくなります。 - 食べすぎ(高エネルギー・高脂肪食)
過剰なエネルギー摂取が続くと、血糖コントロールに負担がかかります。 - 運動不足
筋肉量が少ないと糖をうまく利用できず、血糖値が上昇しやすくなります。 - ストレス・睡眠不足
ホルモンバランスの乱れにより、血糖値が不安定になることがあります。 - 遺伝体質
家族に糖尿病の方がいる場合、発症リスクが高まるとされています。 - 加齢によるインスリン分泌の低下
年齢とともにインスリンの分泌量や働きが低下する傾向があります。
□ 糖尿病になりやすい人の特徴
以下のような特徴に心当たりがある場合、糖尿病のリスクが高い可能性があります。
- お腹まわりが大きく、内臓脂肪が気になる
- 血縁者(親・兄弟姉妹)に糖尿病の方がいる
- 40歳以降に体重が増えてきた
- 甘い飲み物や間食を日常的に摂っている
- 慢性的に運動不足で、体を動かす機会が少ない
これらに当てはまる場合でも、早い段階で生活習慣を見直すことで発症や進行を抑えられる可能性があります。 健康診断で血糖値の異常を指摘された方は、早めの相談が大切です。
糖尿病は遺伝する?
糖尿病には遺伝的に「なりやすい体質」が関係すると考えられています。 特に2型糖尿病では、家族に糖尿病の方がいる場合、 発症リスクが高くなることが知られています。また日本人は欧米と比べて、糖尿病の患者数が人口比で1.5〜2倍となっており、民族的に糖尿病になりやすいと考えられています。
ただし、糖尿病は遺伝だけで決まる病気ではありません。 同じ体質を持っていても、日々の食事内容や運動習慣、体重管理の状況によって、 発症するかどうかは大きく左右されます。
つまり、家族に糖尿病の方がいる場合でも、 生活習慣を整えることで発症を予防したり、進行を抑えたりすることが可能です。 早い段階から血糖値を意識した生活を心がけることが重要といえるでしょう。
糖尿病の主な合併症
糖尿病治療の最終的な目的は、単に血糖値の数値を下げることではありません。 血糖値を適切な範囲に保つことで、合併症を予防し、健康寿命(QOL)を守ることが もっとも重要な目標とされています。
□ 糖尿病の3大合併症
- 網膜症 : 目の障害
目の網膜の血流が悪くなり、初期〜中期には自覚症状はありませんが、末期で急激な視力低下、失明に至ることがあります。 - 腎症 : 腎臓の障害
腎臓の糸球体に過剰な負荷がかかり、尿蛋白を指摘されることから始まり、末期まで進行すると透析が必要になります。 - 末梢神経障害 : 神経の障害
手足の指先の痺れなどから始まり、病状が進行すると指先の感覚がなくなり怪我に気付かず悪化させたり、腸の動きや排尿調節している神経まで及ぶと便秘・下痢や排尿障害などを起こします。末期では、足先が黒く壊死を起こすこともあり非常に危険です。
□ 重篤な合併症
血糖値が高い状態が長期間続くと、全身の血管に負担がかかり、 さまざまな臓器に障害が起こりやすくなります。 その結果、以下のような重い合併症につながる可能性があります。
- 心筋梗塞
動脈硬化により、心臓に血液を流している冠動脈が閉塞して発症します。 - 脳卒中
脳の血管障害により脳出血、脳梗塞を起こすと頭痛、麻痺や失語、意識障害などを起こします。 - 末期腎不全
身体の老廃物の排出や、電解質(Na、Kなど)と水分の調節ができなくなり、週3回の透析が必要になります。 - 失明
糖尿病網膜症の進行で、末期では突然の視力低下、失明が起こり得ます。 - 足の壊疽(黒く腐ってしまう)
血流障害から足先から壊死してしまうことがあります。一度壊死すると放置しては敗血症で死亡する可能性があるため、壊死している足の切断をしなければなりません。
このように、糖尿病治療は全身の血管を守るための治療と考えることができます。 そのため、血糖管理だけでなく、血圧や脂質管理、生活習慣の改善も含めた総合的な治療が重要です。
糖尿病の治療
糖尿病の治療は、血糖値を適切にコントロールしながら、 合併症を予防し、日常生活の質を維持することを目的に行われます。 治療内容は、患者さんの状態や生活背景に応じて段階的に選択されます。
□ 食事療法(最も大切な治療)
食事療法は、糖尿病治療の基本であり、もっとも重要な治療です。 無理な制限ではなく、継続できる食習慣を身につけることが大切です。
- 適正カロリーにする
年齢・性別・活動量に応じた適切なエネルギー摂取を心がけます。 - 主食・主菜・副菜のバランス
炭水化物・たんぱく質・野菜をバランスよく組み合わせます。 - 甘い飲料を控える
清涼飲料水や加糖飲料は血糖値を急上昇させやすいため注意が必要です。 - 脂質(揚げ物・外食)を減らす
脂質の摂りすぎは体重増加やインスリン抵抗性につながります。 - 野菜から先に食べる
食物繊維を先に摂ることで、食後血糖値の急上昇を抑える効果が期待されます。
□ 運動療法
運動は血糖値の改善だけでなく、体重管理や動脈硬化予防にも有効とされています。 無理のない範囲で、継続することが重要です。
- 週150分の有酸素運動
ウォーキングや軽いジョギングなどを、1回30分程度から行います。 - 週2〜3回の筋力トレーニング
筋肉量を維持・増加させることで、糖を利用しやすい体づくりにつながります。
□ 薬物療法
食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが十分でない場合、 患者さんの状態に応じて薬物療法が検討されます。
- メトホルミン
肝臓での糖の産生を抑え、インスリンの効きを改善します。 - SGLT2阻害薬
尿中に糖を排出することで血糖値を下げる作用があります。 - DPP-4阻害薬
食後の血糖値上昇を抑える作用があります。 - GLP-1受容体作動薬
血糖値の改善に加え、食欲抑制効果が期待される場合があります。 - インスリン療法
インスリン分泌が不足している場合に用いられます。
薬の選択や使用方法は、年齢・合併症・生活スタイルなどを考慮し、 医師が総合的に判断します。自己判断での中断や変更は避けましょう。
糖尿病の対策・予防
糖尿病は、生活習慣を見直すことで発症を予防したり、進行を抑えたりできる可能性がある病気です。 特に血糖値が「少し高め」と指摘された段階で対策を始めることが、 将来の合併症予防につながります。
□ 今日からできる予防行動
無理な制限を行う必要はありません。 日常生活の中で、以下のようなポイントを意識することが大切です。
- 体重を適正に保つ(特にお腹周り)
内臓脂肪を減らすことで、インスリンの働きが改善しやすくなります。 - 糖質・脂質・カロリーを取りすぎない
食べ過ぎを避け、バランスの良い食事を心がけましょう。 - 運動を週3回以上続ける
ウォーキングなどの軽い運動でも、継続することが重要です。 - 睡眠の質を改善する
睡眠不足や不規則な生活は血糖値を不安定にする要因となります。 - 血糖値・HbA1cを定期的にチェックする
数値の変化を把握することで、早期対応が可能になります。
糖尿病の予防で最も重要なのは、血糖値が「高め」の段階で生活習慣を整えることです。 症状がなくても、健康診断で指摘を受けた場合は、 早めに医療機関で相談することをおすすめします。
まとめ
糖尿病は、初期には自覚症状がほとんどないため、 気づかないうちに進行してしまうことがある生活習慣病です。 しかし、決して放置するしかない病気ではありません。
食事・運動・睡眠などの生活習慣を整え、必要に応じて適切な治療を行うことで、 失明や末期腎不全(透析)、心筋梗塞、脳梗塞といった 重大な合併症を予防し、健康な生活を長く維持することが可能です。
特に、血糖値が「少し高め」と言われた段階や、 健康診断でHbA1cの上昇を指摘された段階で対応を始めることが、 将来のリスクを減らすうえで非常に重要です。
症状がなくても不安を感じている方や、 検査結果について詳しく知りたい方は、 早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 血糖値が少し高いだけでも受診した方がよいですか?
はい。血糖値が「少し高め」の段階は、生活習慣を整えることで 糖尿病の発症や進行を防ぎやすい時期です。 症状がなくても、早めに相談することで将来の合併症リスクを下げることができます。
Q2. 健診でHbA1cが高いと言われましたが、すぐ治療が必要ですか?
HbA1cの数値や他の検査結果、生活状況によって対応は異なります。 すぐに薬が必要になるとは限らず、 まずは食事や運動などの生活習慣改善から始める場合も多くあります。
Q3. そもそもHbA1cって何?
過去1〜2か月の平均血糖を示す指標で、6.5%以上で糖尿病の可能性が高いです。正常の人でも食事をした後に「血糖値が高い」は起こりますが、「HbA1cが高い」は起こりません。治療を開始すると、この数値が最も大切な基準になります。
Q4. 糖尿病は一生付き合わなければならない病気ですか?
糖尿病は長期的な管理が必要な病気ですが、 適切な治療と生活習慣の改善により、 安定した状態を保ち、普段通りの生活を送ることが可能です。
Q5. 症状がないのに治療を続ける意味はありますか?
あります。糖尿病の合併症は、 症状がないまま静かに進行することが多いため、 症状がなくても血糖値を管理することが非常に重要です。
参考文献
※本記事は、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」や厚生労働省の公式情報など上記を参考に、医師が内容を精査し作成しています。


















