発熱の原因となる病気
目次
- よくある症状
└ 発熱・風邪症状に見られる主な症状 - 発熱の原因疾患
①ウイルス感染症
1. かぜ症候群(感冒)
2. インフルエンザ
3. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
4. 伝染性単核球症(EBウイルス感染症)
5. ヘルパンギーナ・手足口病
6. 急性胃腸炎(ウイルス性)
7. ウイルス性肝炎
②細菌感染症
1. 扁桃炎・咽頭炎
2. 肺炎(細菌性・非定型肺炎など)
3. 急性気管支炎
4. 尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)
5. 急性胃腸炎(細菌性)
6. 蜂窩織炎(皮膚の感染)
7. 髄膜炎
8. 感染性心内膜炎
③その他の感染症
1. 結核
2. 非結核性抗酸菌症
3. マイコプラズマ肺炎
4. 真菌感染症
└ カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコックス症
5. 寄生虫感染症
└ マラリア、アメーバ赤痢
④感染症以外の原因
1. 膠原病・自己免疫疾患
└ 成人スチル病・関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、血管炎症候群
2. 悪性腫瘍(がん)
└ 悪性リンパ腫・白血病・腎細胞がん・その他の固形がん
3. 薬剤熱(薬による発熱)
4. 血液疾患
5. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
6. 深部静脈血栓症・肺塞栓症
7. 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)
8. その他
└ 熱中症、脱水、周期性発熱症候群(自己炎症性疾患) - 最後に
よくある症状
発熱・風邪症状では、以下のような症状が現れます:
・発熱(37.5℃以上)
・鼻水・鼻づまり
・咳・痰(たん):痰とは、のどや気管から出る粘液のことです
・のどの痛み
・頭痛
・倦怠感(けんたいかん):全身のだるさ、体が重く感じて動きたくない状態です
・筋肉痛・関節痛
・悪寒(おかん):寒気がしてブルブル震える症状です
これらの症状の組み合わせや程度によって、どのような病気なのかを判断していきます。
発熱の原因疾患
発熱の原因は大きく4つに分類されます。それぞれについて詳しく説明します。
① ウイルス感染症
ウイルスは細菌よりも小さい病原体で、抗生物質(抗菌薬)は効きません。風邪の90%以上はウイルス性です。
1-1. かぜ症候群(感冒)
いわゆる「風邪」のことで、最も一般的な病気です。
原因ウイルス:ライノウイルス、コロナウイルス(普通の風邪のコロナウイルス)、アデノウイルス、RSウイルスなど200種類以上
特徴的な症状:
・鼻水、くしゃみ、鼻づまり(上気道症状が中心)
・のどの痛み
・軽度から中等度の発熱(37〜38℃程度)
・症状は比較的軽く、全身症状も軽度
・通常3〜7日程度で自然に良くなります
治療:対症療法(症状を和らげる薬)が中心。十分な休養と水分補給が大切です。
1-2. インフルエンザ
インフルエンザウイルス(A型、B型)による感染症で、普通の風邪より症状が強いのが特徴です。
特徴的な症状:
・突然の高熱(38℃以上、多くは39〜40℃)
・強い全身症状:激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、強いだるさ
・咳、のどの痛み、鼻水なども伴います
・症状の出始めが急激(「○時頃から急に」と時間まで覚えていることが多い)
・回復まで1週間程度かかることが多い
治療:発症48時間以内であれば抗インフルエンザ薬(タミフル、イナビルなど)が有効です。
1-3. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症です。
特徴的な症状:
・発熱、咳、のどの痛み
・味覚・嗅覚の異常(味がわからない、においがわからない)
・息苦しさ、呼吸困難
・強い倦怠感
・症状の程度は軽症から重症まで様々
・高齢者や持病のある方は重症化しやすい
治療:重症化リスクのある方には抗ウイルス薬を検討します。
1-4. 伝染性単核球症(EB ウイルス感染症)
主に若年者に見られる感染症です。「キス病」とも呼ばれます。唾液を介して感染する、若い方に多い病気です。
特徴的な症状:
・発熱(しばしば高熱)
・激しいのどの痛み
・首のリンパ節の腫れ
・全身倦怠感
・肝臓や脾臓(ひぞう:お腹の左上にある臓器)の腫れ
・症状が数週間続くことがあります
治療:特効薬はなく、対症療法と安静が中心です。2週間高熱が続くこともあります。
1-5. ヘルパンギーナ・手足口病
主に小児に見られますが、成人でもかかることがあります。
特徴的な症状:
・発熱
・口の中の水疱(すいほう:水ぶくれ)や潰瘍(かいよう:ただれ)
・手足口病では手のひら、足の裏にも発疹
・のどの痛み
1-6. 急性胃腸炎(ウイルス性)
ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが原因です。
特徴的な症状:
・発熱
・吐き気・嘔吐
・下痢
・腹痛
・脱水症状に注意が必要
1-7. ウイルス性肝炎
A型、B型、C型、E型などの肝炎ウイルスが原因です。
特徴的な症状:
・発熱
・黄疸(おうだん):白目や皮膚が黄色くなる
・全身倦怠感
・食欲不振
・尿が濃い茶色になる
② 細菌感染症
細菌はウイルスより大きい病原体で、抗生物質(抗菌薬)が有効です。細菌感染症は、理論上身体のどこでも起こしうるので、全てまとめると1冊の辞書になってしまいます。発熱メインで受診される方にみられる病気をまとめます。
2-1. 扁桃炎・咽頭炎
のどの奥にある扁桃が細菌に感染する病気です。溶連菌(ようれんきん)が原因のことが多いです。
ウイルス性としてアデノウイルスやインフルエンザなども多く、必ずしも細菌性とは限りません。
特徴的な症状:
・激しいのどの痛み(つばを飲み込むのも辛い)
・高熱(38℃以上)
・扁桃が赤く腫れ、白い膿(うみ)がつく
・首のリンパ節が腫れて痛む
・溶連菌の場合、発疹が出ることもあります
治療:抗生物質による治療が必要です。ウイルス性では抗菌薬はありません。
2-2. 肺炎
肺に細菌が感染して炎症を起こす病気です。肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌などが原因です。
ただし、肺炎はウイルス性や細菌性に限らず多くの種類があります。非定型肺炎として、レジオネラ肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、オウム病があり、診断が血液検査とレントゲンだけでは難しい場合があります。
特徴的な症状:
・高熱(38℃以上)が続く
・咳、痰(黄色や緑色の痰が出ることが多い)
・息苦しさ、呼吸困難
・悪寒戦慄(ガタガタ震える強い寒気)
・大量の汗(パジャマやシーツを交換するほど)
・胸の痛み
・高齢者では症状が軽くても肺炎のことがあります
治療:抗生物質による治療が必要です。重症の場合は入院が必要です。
2-3. 急性気管支炎
気管支(空気の通り道)に細菌が感染する病気です。
特徴的な症状:
・発熱
・長引く咳(黄色や緑色の痰を伴うことが多い)
・胸の不快感
治療:細菌性の場合は抗生物質が有効です。
2-4. 尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)
尿の通り道に細菌が感染する病気です。特に腎盂腎炎(じんうじんえん)は腎臓の感染症で、注意が必要です。
特徴的な症状:
・発熱(腎盂腎炎では高熱になることが多い)
・背中や腰の痛み(特に腎盂腎炎で顕著)
・排尿時の痛み、頻尿(何度もトイレに行きたくなる)
・尿が濁る、血尿
・悪寒
治療:抗生物質による治療が必要です。
2-5. 急性胃腸炎(細菌性)
カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などが原因です。
特徴的な症状:
・発熱
・下痢(水様性や血便)
・腹痛
・吐き気・嘔吐
・食中毒として発症することが多い
治療:脱水の予防が重要。細菌の種類によっては抗生物質を使用します。
2-6. 蜂窩織炎(ほうかしきえん)
皮膚の深い部分に細菌が感染する病気です。
特徴的な症状:
・発熱
・皮膚の赤み、腫れ、熱感、痛み
・境界がはっきりしない赤い広がり
・足に起こることが多い
治療:抗生物質による治療が必要です。
2-7. 髄膜炎
脳や脊髄を覆う髄膜(ずいまく)に細菌が感染する病気で、緊急対応が必要です。細菌性だけではなく、ウイルス性、無菌性もあります。
特徴的な症状:
・高熱
・激しい頭痛
・項部硬直(こうぶこうちょく):首が硬くなって曲げられない
・意識障害
・けいれん
・光をまぶしく感じる
治療:緊急入院が必要です。すぐに抗生物質の点滴治療を開始します。
2-8. 感染性心内膜炎
心臓の弁に細菌が感染する病気です。
特徴的な症状:
・発熱が続く
・倦怠感
・心雑音
・息切れ
・皮膚の小さな出血斑
治療:長期間の抗生物質点滴治療が必要です。
③ その他の感染症
ウイルスや細菌以外の病原体による感染症です。
3-1. 結核
結核菌による感染症で、主に肺に感染します。人から人へ空気感染します。
特徴的な症状:
・微熱が続く(特に夕方から夜にかけて)
・2週間以上続く咳
・血痰(血が混じった痰)
・体重減少
・寝汗(夜間に大量の汗をかく)
・食欲不振、倦怠感
診断:胸部X線検査、痰の検査、血液検査(T-SPOT、クォンティフェロン)で診断します。
治療:複数の抗結核薬を6ヶ月以上服用します。保健所への届け出が必要です。
3-2. 非結核性抗酸菌症
結核菌に似た菌(非定型抗酸菌)による感染症です。
特徴的な症状:
・微熱
・慢性的な咳、痰
・症状が結核に似ていますが、人から人への感染はありません
治療:長期間の抗菌薬治療が必要です。
3-3. マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマという特殊な細菌(細胞壁を持たない)による肺炎です。
特徴的な症状:
・発熱
・しつこい乾いた咳(痰が少ない)
・頭痛
・全身倦怠感
・若年者に多い
・家族内で感染が広がることが多い
治療:通常の抗生物質とは異なる抗菌薬(マクロライド系など)が必要です。
3-4. 真菌感染症(カビの感染)
カビ(真菌)による感染症です。免疫力が低下している方に起こりやすいです。
カンジダ症
・口の中や食道、皮膚に白い苔のようなものができる
・発熱することもあります
アスペルギルス症
・肺に感染することが多い
・発熱、咳、血痰
・喘息のような症状
クリプトコックス症
・肺や脳に感染
・発熱、頭痛、意識障害
治療:抗真菌薬による治療が必要です。
3-5. 寄生虫感染症
寄生虫による感染症です。海外渡航歴がある場合に注意が必要です。
マラリア
・熱帯・亜熱帯地域への渡航歴
・周期的な高熱(48時間または72時間ごと)
・悪寒、大量の発汗
・頭痛、筋肉痛
アメーバ赤痢
・発熱
・血便を伴う下痢
・腹痛
治療:抗寄生虫薬による治療が必要です。
④ 感染症以外の原因
感染症以外でも発熱することがあります。これらは見逃されやすいため、注意が必要です。
4-1. 膠原病・自己免疫疾患
自分の免疫が自分の体を攻撃してしまう病気です。
成人スチル病
特徴的な症状:
・高熱(39℃以上、1日1回以上)
・サーモンピンク色の発疹(熱が出ると出現)
・関節痛、筋肉痛
・のどの痛み
・若年成人に多い
関節リウマチ
特徴的な症状:
・微熱
・朝のこわばり(特に手の関節)
・複数の関節の腫れと痛み
・対称性(左右両方)に症状が出る
全身性エリテマトーデス(SLE)
特徴的な症状:
・発熱
・蝶形紅斑(ちょうけいこうはん):頬に蝶のような赤い発疹
・関節痛
・日光過敏
・腎臓、肺、心臓など全身の臓器に影響
血管炎症候群
特徴的な症状:
・発熱
・全身倦怠感
・体重減少
・血管の炎症による様々な症状(発疹、しびれ、臓器障害など)
診断:血液検査(炎症反応、自己抗体など)、画像検査で診断します。
治療:ステロイドや免疫抑制薬を使用します。
4-2. 悪性腫瘍(がん)
がん自体が発熱の原因になることがあります。これを腫瘍熱(しゅようねつ)と呼びます。
発熱を起こしやすい悪性腫瘍の例
・悪性リンパ腫:リンパ節の腫れ、発熱、体重減少、寝汗
・白血病:発熱、貧血、出血しやすい、感染しやすい
・腎細胞がん:発熱、血尿、腰や脇腹の痛み
・その他の固形がん(肺がん、肝臓がん、大腸がんなど)
特徴的な症状:
・38℃以上の発熱が2週間以上続く
・抗生物質が効かない
・体重減少
・寝汗
・全身倦怠感
・食欲不振
診断:血液検査、CT、MRI、PET検査、生検(組織を取って調べる)などで診断します。
治療:がんの種類に応じて化学療法、放射線療法、手術などを行います。
4-3. 薬剤熱(やくざいねつ)
薬のアレルギー反応による発熱です。意外と見逃されやすい原因です。
原因となりやすい薬剤:
・抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)
・抗てんかん薬
・解熱鎮痛薬
・抗がん剤
・その他多くの薬剤
特徴的な症状:
・発熱(薬開始後7〜10日頃に多い)
・比較的元気(高熱の割に全身状態は良い)
・比較的徐脈(じょみゃく):熱の割に脈が速くない
・発疹が出ることもあります
診断:原因薬剤を中止すると48時間以内に解熱することが多いです。
治療:原因薬剤の中止が最も重要です。
4-4. 血液疾患
血液の病気でも発熱することがあります。
特徴的な症状:
・発熱
・貧血症状(疲れやすい、息切れ、めまい)
・出血しやすい(鼻血、歯茎からの出血、あざができやすい)
・リンパ節の腫れ
4-5. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
特徴的な症状:
・微熱
・動悸(心臓がドキドキする)
・体重減少(食べているのに痩せる)
・手の震え
・暑がり、汗をかきやすい
・眼球突出(バセドウ病)
治療:抗甲状腺薬などで治療します。
4-6. 深部静脈血栓症・肺塞栓症
血管の中に血の塊(血栓)ができる病気です。
特徴的な症状:
・発熱
・足の腫れ、痛み(深部静脈血栓症)
・突然の息苦しさ、胸の痛み(肺塞栓症)
・長時間の同じ姿勢(飛行機、車など)の後に起こりやすい
治療:緊急治療が必要です。抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を使用します。
4-7. 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
腸に慢性的な炎症が起こる病気です。
特徴的な症状:
・発熱
・血便、下痢
・腹痛
・体重減少
4-8. その他
熱中症
・高温環境での発熱
・頭痛、めまい、吐き気
・意識障害
脱水
・発熱
・口の渇き、尿量減少
周期性発熱症候群(自己炎症性疾患)
・周期的に発熱を繰り返す
・家族性地中海熱などが含まれます
最後に
このように発熱の原因は多岐にわたります。ボリュームが多くなってしまいましたが、これでも専門の医師からは説明不足と言われる内容だと思います。もし気になる項目や相談したいことがあれば、ぜひ当院までご来院ください。
当院では発熱、咳症状のある方は、特に感染力の強い疾患(新型コロナ感染症、インフルエンザなど)の隔離のため、奥の個室で(混み合っている場合には車内で)診察しています。事前のWeb予約または電話相談をよろしくお願いします。












