自律神経失調症と起立性調節障害の違い
身体的な不調があるのに検査では異常が見つからない…そんな経験はありませんか?自律神経失調症と起立性調節障害は、どちらも自律神経の乱れによって様々な症状が現れる疾患です。しかし、発症の仕組みや起こりやすい年齢、診断方法には明確な違いがあります。このページでは、両疾患の特徴を詳しく比較し、患者様やご家族の理解を深めるための情報をお届けします。
疾患の定義と基本的な違い
自律神経失調症とは
自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、多様な身体症状が現れる状態を指します。日本心身医学会では「多様な自律神経系の症状を有し、しかも検査では器質的な病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と定義されています。
重要なポイント:
- 明確な診断基準が確立されていない
- 他の疾患を除外することで診断される(除外診断)
- 年齢を問わず発症する可能性がある
- 症状の出現時間帯に明確な傾向がない場合もある
起立性調節障害(OD)とは
起立性調節障害は、自律神経失調症の一種とも考えられますが、診断基準と手順が明確に定められている点が大きな違いです。起立時に血液が下半身に貯留し、脳への血流が低下することで症状が現れます。
重要なポイント:
- 思春期前後(小学校高学年~高校生)の10〜16歳に好発
- 男児より女児に多い傾向
- 家族内発生が少なくない(特に母親の思春期に同様の症状があったケースが多い)
- 明確な診断基準と検査方法が確立されている
原因
自律神経失調症の原因
自律神経失調症は、原因別で大きく分けて3つのタイプに分類されます。
1. 体質による自律神経失調症
- 生まれつき自律神経症状が起こりやすい体質
2. ストレス反応による自律神経失調症
- 精神的ストレス(人間関係、仕事のプレッシャー)
- 身体的ストレス(過労、光、音、温度)
- 環境の変化
- 睡眠不足や生活習慣の乱れ
3. 精神症状による自律神経失調症
- うつ病や不安症の部分症状として出現
これらが複合的に関与している場合も多く、明確に区別することは困難です。
起立性調節障害の原因
1. 起立時の循環動態の破綻
- 立ち上がると血液が全身に行きわたりにくくなる
- 特に脳への血流が不足する
2. 自律神経機能の低下
- 交感神経の働きすぎ、または働き不足
- 下半身の血管収縮が適切に行われない
3. 思春期特有の要因
- ホルモンバランスの変化
- 身体の急激な成長
- 遺伝的要素
4. その他の要因
- 水分摂取不足
- 心理社会的ストレス
- 日常活動量の低下
症状
両疾患に共通する症状が多く見られますが、起立性調節障害は特に体位変換時(朝起きる時や立ち上がる時)に症状が顕著という特徴があります。
共通する症状
| 部位・系統 | 症状 |
|---|---|
| 心臓・血管系 | 動悸、胸痛、立ちくらみ |
| 呼吸器系 | 息苦しさ、息切れ |
| 消化器系 | 吐き気、下痢、便秘、腹痛、食欲不振 |
| 神経系 | 頭痛、めまい |
| 目・耳・口 | 疲れ目、目の乾燥、耳鳴り、口の渇き |
| 四肢 | 冷え、しびれ、痛み |
| 筋骨格系 | 肩こり、関節痛、筋肉痛 |
| 泌尿生殖器 | 排尿困難、残尿感、生理不順 |
| 精神面 | 不眠、イライラ、気分の落ち込み |
| 全身 | 倦怠感、疲れやすさ |
起立性調節障害に特徴的な症状(新起立試験で診断)
日本小児心身医学会の診断基準では、以下の11項目のうち**3つ以上(または2つでも症状が強い場合)**該当すれば起立性調節障害を疑います。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い(起立性調節障害の特徴)
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 臍疝痛(へその周囲の痛み)をときどき訴える
- 倦怠感または疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
起立性調節障害に特徴的なポイント:
- 午前中に症状が強く、午後から回復する傾向
- 急激な体位変換時(起床時、長時間座位から立ち上がる時)に症状が悪化
- 春から秋にかけて、特に新学期の時期に悪化しやすい
- 夏場は副交感神経が優位になり血圧が低下しやすく症状増悪
- 曇りや雨など低気圧の時に症状悪化
診断方法
自律神経失調症の診断
診断基準:明確な基準なし(他の病気を除外して診断します)
診断の流れ:
- 詳細な問診
- 症状に応じた検査の実施
- 動悸 → 心電図検査
- 胃痛 → 胃カメラ検査
- その他症状に対応した各種検査
- 検査で異常が見られない場合に診断
- 補助的に自律神経機能検査(シェロング試験など)を行うこともある
診断のポイント:
- 器質的疾患(臓器や器官に異常が認められる病気)の除外が重要
- 他の身体疾患や精神疾患との鑑別が必要
起立性調節障害の診断
診断基準:明確な基準あり
診断の手順(日本小児心身医学会ガイドライン):
ステップ1:問診と症状チェック
- 上記11項目のうち3つ以上該当するか確認
ステップ2:基礎疾患の除外
- 血液検査
- 検尿
- レントゲン検査
- 心電図
- その他症状に応じた検査
ステップ3:新起立試験(確定診断)
- 10分間安静の状態で横になった後に起立
- 心拍数と血圧の変化を測定
- 以下の4つのサブタイプを判定
起立性調節障害のサブタイプ:
| サブタイプ | 特徴 |
|---|---|
| 起立直後性低血圧 | 起立直後に血圧低下が起こり、回復に時間がかかる |
| 体位性頻脈症候群 | 起立後の血圧低下はなく、心拍数が異常に増加する |
| 血管迷走神経性失神 | 起立中に急激な血圧低下が起こり、失神する |
| 遷延性起立性低血圧 | 起立中に徐々に血圧低下が進み、失神する |
診断のポイント:
- 客観的な検査データに基づいて診断可能
- 午前中の症状が強い時間帯に検査を実施することが推奨される
治療方法
自律神経失調症の治療
基本方針:症状の緩和と原因への対処
1. 環境調整・生活指導
- ストレスの軽減
- 規則正しい生活習慣の確立
- 十分な休養の確保
2. 非薬物療法
- 自律訓練法(リラクゼーション法)
- カウンセリング
- ストレス対処法の習得
3. 薬物療法(対症療法)
- 症状に応じた薬剤の使用:
- 動悸 → 抗不安薬
- 不眠 → 睡眠薬
- 胃腸症状 → 胃腸調整薬
- めまい → 抗めまい薬
- 痛み → 鎮痛薬
- 抗うつ剤や抗不安薬でストレス反応を緩和
- 漢方薬の併用
4. 精神療法
- うつ病や不安症を合併している場合
- 心理的要因が強い場合
起立性調節障害の治療
基本方針:非薬物療法が最優先、症状が強い場合に薬物療法を追加
1. 非薬物療法(最も重要)
生活習慣の改善:
- 早寝早起き、規則正しい生活リズム
- 十分な水分摂取(1日1.5〜2リットル)
- 適切な塩分摂取(血液量を増やすため)
- 3食しっかり食べる
起立時の工夫:
- 朝起きる時はゆっくり段階的に起き上がる
- 急に立ち上がらない
- 長時間立ち続けることを避ける
運動療法:
- 下肢の筋力を鍛える運動(下半身の筋肉ポンプ機能を高める)
- 適度な有酸素運動
- 継続的な運動習慣の確立
2. 薬物療法(症状が強い場合)
- 昇圧剤(血圧を安定させる)
- β遮断薬(脈拍を安定させる)
- 漢方薬(特に効果的な場合がある)
- 補中益気湯
- 苓桂朮甘湯
- その他体質に応じた漢方
3. 心理的サポート
- 本人への病気の説明と理解
- 家族や学校関係者への理解促進
- 不登校などの二次的問題への対応
治療における重要な違い:
- 自律神経失調症:薬物療法と心理療法の比重が大きい
- 起立性調節障害:非薬物療法(特に生活習慣改善)が治療の中心
予防対策
両疾患ともに自律神経のバランスを整えることが重要ですが、いくつかの共通点と違いがあります。
共通する対策
1. 規則正しい生活習慣
- 早寝早起き
- 決まった時間に食事を摂る
- 十分な睡眠時間の確保(7〜8時間)
2. ストレスマネジメント
- ストレス源から適度に距離を置く
- 気晴らし法を身につける
- 相談できる人を確保する
- 無理をしない、我慢しすぎない
3. 運動習慣
- 適度な運動で自律神経のバランスを整える
- ストレッチなどで筋肉をほぐす
4. リラックス法
- 入浴(ぬるめのお湯にゆっくり浸かる)
- アロマセラピー
- 音楽を聴く
- 自律訓練法
5. 食生活の改善
- バランスの良い食事
- 規則正しい食事時間
起立性調節障害に特化した対策
1. 水分・塩分摂取
- 1日1.5〜2リットルの水分摂取
- 適切な塩分摂取で循環血液量を増やす
2. 起立動作の工夫
- 朝起きる時は段階的に(仰臥位→座位→立位)
- 急な立ち上がりを避ける
- 長時間立ち続けない
3. 下肢の筋力強化
- スクワット、ウォーキングなど
- 筋肉ポンプ機能を高める運動
4. 季節・天候への対応
- 夏場は特に水分摂取に注意
- 低気圧の日は無理をしない
- 天気予報を確認して予定を調整
5. 環境調整
- 学校や職場での理解と配慮
- 症状が強い午前中のスケジュール調整
何科を受診すべきか
自律神経失調症の場合
症状や精神的状態に応じて受診科を選択します:
| 症状・状況 | 推奨される診療科 |
|---|---|
| 精神的ストレスが強い | 心療内科 |
| うつ症状、不安が強い | 精神科・メンタルクリニック |
| 胃腸症状が中心 | 消化器内科 |
| 頭痛、めまいが中心 | 神経内科 |
| 多様な症状で迷う場合 | 総合内科(適切な科を紹介してもらえる) |
起立性調節障害の場合
年齢によって受診科が異なります:
| 年齢 | 推奨される診療科 |
|---|---|
| 小学生〜中学生 | 小児科 |
| 高校生 | 循環器内科、神経内科、総合内科 |
| 心の問題が強い場合 | 心療内科(年齢問わず) |
| 受診先に迷う場合 | 総合内科(適切な科を紹介してもらえる) |
起立性調節障害に詳しい医療機関を探すポイント:
- 小児心身医学を専門とする医師がいる
- 新起立試験などの専門的検査が可能
- 思春期の患者への対応経験が豊富
経過について
自律神経失調症の予後
- 適切な治療とストレス管理により改善が期待できる
- 慢性化する場合もあり、長期的な管理が必要なことも
- 原因(ストレス、精神疾患など)への対処が重要
- 年齢による自然軽快は必ずしも期待できない
起立性調節障害の予後
- 10代前半の好発年齢を過ぎると症状は軽減することが多い
- 適切な治療により多くの場合、治療は比較的容易
- 早期発見・早期治療が重要
- 成人後もODが続く場合もあるが、思春期に比べると軽症化する傾向
まとめ:2つの疾患の重要な違い
| 項目 | 自律神経失調症 | 起立性調節障害 |
|---|---|---|
| 診断基準 | 明確な基準なし(除外診断) | 明確な診断基準あり |
| 好発年齢 | 年齢を問わず | 10〜16歳(思春期) |
| 特徴的症状 | 多様で時間帯の傾向なし | 午前中に強く午後に回復、朝起きられない |
| 診断検査 | 症状に応じた各種検査 | 新起立試験が決定的 |
| 治療の中心 | 薬物療法と心理療法 | 非薬物療法(生活習慣改善) |
| 予後 | 原因次第で様々 | 思春期を過ぎると軽快することが多い |
どちらの疾患も、周囲の理解とサポートが非常に重要です。特に起立性調節障害は「怠け」や「気持ちの問題」と誤解されやすいため、正しい診断と適切な説明が必要です。症状でお困りの方は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
当院では
当院では、自律神経失調症や起立性調節障害の診断・治療の相談に対応しています。自律神経失調症は、当院の診察だけでは診断・治療は困難ですので総合病院へ紹介させていただきます。起立性調節障害の診断・治療については、詳しい問診と必要な検査を行い、患者様一人ひとりに合わせた対策、治療を提案いたします。また、ご家族への説明や学校との連携も大切にしています。気になる症状がありましたら、お気軽にご相談ください。

















