花粉症
ー花粉症の症状、原因、最新の治療法から日常生活での予防・対策まで詳しく解説ー
本ページの要点
- 花粉症とは:スギなどの花粉によるアレルギー反応(季節性アレルギー性鼻炎)。
- 主な症状:くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ。放置すると日常生活に影響。
- 飛散時期:春(スギ・ヒノキ)だけでなく、夏や秋も注意が必要。
- 治療の柱:飲み薬・点鼻薬に加え、根本治療の「舌下免疫療法」がある。
- 早めの対策:飛散開始前の「初期療法」が症状を軽くする鍵。
目次
- 花粉症とは
- 鼻炎の種類
└ 1. アレルギー性鼻炎
└ 2. 感染性鼻炎
└ 3. その他 - 花粉症の症状
- 花粉とその飛散時期について
└ 【年間カレンダー】主な原因物質と飛来時期 - 花粉症の治療(薬物療法・舌下免疫療法・手術)
- 日常生活での予防・対策
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
花粉症とは
花粉症は、植物の花粉が原因で起こるアレルギー反応で、医学的には「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれます。体内の免疫システムが、本来無害であるはずの花粉を「排除すべき異物」と認識することで、くしゃみや鼻水などの過剰な反応を引き起こします。
現在、日本人の42.5%が花粉症と言われており、仕事や勉強の効率低下、睡眠不足など、生活の質(QOL)に大きく影響する疾患です。
鼻炎の種類
「鼻水・鼻づまり・くしゃみ」といった症状が出る病気は、花粉症だけではありません。適切な治療を行うためには、まずその原因が何であるかを正しく見極めることが重要です。鼻炎は大きく分けて以下の3つのタイプに分類されます。
1. アレルギー性鼻炎(免疫反応によるもの)
特定の物質に対して免疫が過剰に反応するタイプです。さらに以下の2つに分けられます。
- 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症):スギ、ヒノキ、イネ科、ブタクサなど、特定の時期に飛散する花粉が原因です。
- 通年性アレルギー性鼻炎:ダニ、ハウスダスト、ペットの毛、カビなどが原因で、一年中症状が見られます。
※「花粉症だと思っていたら、実はハウスダストアレルギーだった」というケースや、両方を合併しているケースも多く見られます。
2. 感染性鼻炎(ウイルスや細菌によるもの)
いわゆる「鼻かぜ」や「副鼻腔炎(ちくのう症)」がこれに該当します。
- 風邪(急性鼻炎):ウイルス感染が原因です。引き始めはサラサラした鼻水ですが、数日で黄色く粘り気のある鼻水に変わるのが特徴です。喉の痛みや発熱を伴うことが多いです。
- 副鼻腔炎:鼻の奥(副鼻腔)に膿が溜まる状態で、粘り気のある鼻水、鼻づまり、顔面の痛みや頭重感が現れます。
3. 非アレルギー性・非感染性鼻炎(自律神経などの乱れ)
検査をしてもアレルギー反応(IgE抗体)が認められないタイプです。
- 血管運動性鼻炎:「寒暖差アレルギー」とも呼ばれます。温度差(暖かい部屋から外に出た時など)、香料、精神的ストレスなどが刺激となり、自律神経の乱れから鼻の粘膜が腫れ、鼻水やくしゃみが出ます。
- 薬剤性鼻炎:市販の点鼻薬(血管収縮剤入り)を長期間使いすぎることで、逆に粘膜が腫れ、鼻づまりが慢性化してしまう状態です。
【チェック】症状で見分ける鼻炎の違い
| 症状・特徴 | 花粉症 | 風邪 | 血管運動性鼻炎 |
|---|---|---|---|
| 鼻水の状態 | 水のように透明 | 水っぽい〜粘り気がある | 水のように透明 |
| 目のかゆみ | 強い | なし | なし |
| くしゃみ | 高頻度 | たまに出る | 数回程度 |
| 主な原因 | 花粉(アレルギー) | ウイルス感染 | 寒暖差・刺激 |
※上記はあくまで目安です。正確な診断には問診や血液検査、耳鼻科での鼻鏡検査が必要です。
花粉症の症状
花粉症の症状は「鼻」や「目」だけでなく、全身に現れることがあります。
- 鼻の3大症状:連続するくしゃみ、水のような鼻水、鼻づまり。
- 目の症状:目のかゆみ、充血、涙。
- 喉・皮膚:喉のイガイガ感、咳、顔や首のかゆみ(花粉皮膚炎)。
- その他:頭が重い、体がだるい、イライラする、集中力の低下、不眠など。
花粉とその飛散時期について
日本では一年中、何らかの花粉が飛散しています。また、近年では花粉だけでなく、黄砂や大気汚染物質がアレルギー症状を悪化させる要因(アジュバント効果※)として注目されています。
※花粉やダニといったアレルゲン(アレルギーの原因物質)と結合したり粘膜を傷つけたりすることで、本来のアレルゲンに対する免疫反応(アレルギー反応)を過剰に増強させる現象。
【年間カレンダー】主な原因物質と飛来時期
飛散時期の早い順に並べています。特に日本人に多い「スギ・ヒノキ・イネ科・ブタクサ」は重要です。
| 物質名 | 主な時期 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| ハンノキ | 1月~4月 | 早春に飛散。バラ科の果物(リンゴ・モモ等)で喉が痒くなる方は注意。 |
| スギ | 2月~4月 | 日本の花粉症の最大原因。飛散距離が非常に長く、広範囲に影響します。 |
| ヒノキ | 3月~5月 | スギの後にピーク。スギ花粉症患者の約7割がヒノキにも反応します。 |
| 黄砂(こうさ) | 3月~5月 | 中国大陸からの飛来。粒子に付着した化学物質が目や鼻の粘膜を刺激します。 |
| シラカンバ | 4月~5月 | 北海道や東北地方における主要な原因花粉です。 |
| コナラ・クヌギ | 4月~5月 | いわゆる「雑木林」にある木々。GW前後まで飛散します。 |
| カモガヤ | 5月~7月 | 初夏の代表。イネ科の植物。河川敷や公園に多く、近づかない工夫が重要。 |
| オオアワガエリ | 5月~8月 | イネ科の植物。カモガヤと同様に初夏から夏に飛散。 |
| ブタクサ | 8月~10月 | 秋の花粉症の代表。空き地や道端に多く、粒子が小さいため気管支まで入りやすい。 |
| ヨモギ | 8月~10月 | 繁殖力が強く、全国のいたるところに自生しています。 |
| カナムグラ | 8月~10月 | 秋に飛散するクワ科のつる植物。住宅街のフェンス等にも自生。 |
| PM2.5 | 通年(春に多い) | 微小粒子状物質。花粉を破壊してアレルゲンを放出させ、症状を悪化させます。 |
花粉症の治療
花粉症自体はスギ、ダニ(ハウスダスト)など治療方法があるものを除いて、現在の医療では完治は望めません。抗アレルギー薬の内服が基本となります。
□ 薬物療法(対症療法)
- 内服薬:第2世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬。これが花粉症に対する基本的な治療で、鼻水だけでなく花粉症による全身症状に対して効果が期待できます。眠気が少なく効果の高いものが主流です。
- 点鼻ステロイド薬:鼻の粘膜の腫れを強力に抑えます。重症度が高い場合に推奨されます。
- 点眼薬:抗アレルギー点眼薬で目のかゆみを抑えます。
※初期療法(早めの治療):花粉が飛散し始める約2週間前から、あるいは少しでも症状を感じた時点で服用を開始する治療です。これにより、シーズン本番の症状を劇的に軽減できます。
□ 舌下免疫療法(減感作療法)
スギまたダニ(ハウスダストの主成分)のアレルギー性鼻炎の方が対象で、それぞれに対象の舌下錠を、舌の下に1分ほど入れて溶かしてから飲み込む方法で毎日服用して体質を改善させます。どちらも3~5年の継続が必要ですが、「花粉症の完治」を目指せる唯一の治療法です。
ダニ(ハウスダスト)はいつからでも治療開始が可能ですが、スギの舌下免疫療法は、シーズン外(通常6月から12月)からの開始が必要です。
※当院では、2025年12月時点で舌下免疫療法を行う予定はありません。
□ 手術療法(下甲介粘膜焼灼術、後鼻神経切断術など)
代表的なものとして、下甲介粘膜焼灼術や後鼻神経切断術という手術があります。
- 下甲介粘膜焼灼術:鼻の粘膜をレーザーで凝固させ、アレルギー反応の場を減らします。
- 後鼻神経切断術:鼻水を出す神経を切断することで鼻水やくしゃみが減ることが期待できる効果の高い手術です。
他にもありますが、気軽に受けるものではなく、お薬ではコントロール不能な重度の鼻炎の方に勧められるものですので、こちらは耳鼻科の医院でご相談ください。
日常生活での予防・対策
花粉症の症状を和らげるためには、体内に入る花粉の量を減らす「回避」が非常に重要です。薬物療法と並行して、以下のセルフケアを習慣にしましょう。
□ 外出時と自宅の基本対策
- 服装:マスクやメガネ(花粉ガード用)を着用しましょう。ウール製の服は花粉が付着しやすいため、表面がツルツルしたポリエステルやナイロン素材のコートが理想的です。
- 帰宅時:玄関の外で服についた花粉をしっかり払い落とします。すぐに洗顔とうがいを行い、可能であれば早めに入浴して髪についた花粉も洗い流してください。
- 換気:なるべく最小限にすることをお勧めします。どうしても換気をしたい方は、窓を開ける際は10cm程度にとどめ、レースのカーテンを閉めることで、室内への花粉流入を約半分に抑えられます。
- 洗濯物:部屋干し推奨です。
□ 「鼻うがい」のススメ
鼻の粘膜に付着した花粉や有害物質を直接洗い流す「鼻うがい(鼻洗浄)」は、非常に効果的な予防法です。鼻づまりの解消や、炎症を抑える効果が期待できます。
鼻うがいのメリット
- 粘膜にこびりついた花粉、黄砂、ウイルスを物理的に除去できる。
- 鼻の通りをスムーズにし、乾燥を防ぐ。
鼻うがいの具体的な方法
- 前かがみの姿勢になる:少し下を向き、「アー」と声を出しながら洗浄液を鼻に注入します。
- 反対の鼻や口から出す:片方の鼻から入れた液が、反対側の鼻や口から自然に出るようにします。
- 優しく鼻をかむ:洗浄後は、鼻の中に残った液を優しくかみ出します。
※注意:洗浄中に唾液を飲み込んだり、強く鼻をすすったりしないでください(中耳炎の原因になることがあります)。
洗浄液(生理食塩水)の準備
水道水でそのまま行うと鼻炎がある方はかなり痛いのですが、体液と同じ浸透圧の「生理食塩水」を使えば、ツーンとした痛みは全くありません。必ず「生理食塩水(約0.9%の食塩水)」を使用します。以下の2通りの方法があります。
| 市販品を購入 | 薬局やドラッグストアで「鼻洗浄用キット(ハナノア等)」を購入するのが最も手軽です。専用のボトルと、痛くない濃度に調整された洗浄液がセットになっています。 |
|---|---|
| 自宅で作る | 作り方:一度沸騰させて冷ましたお湯(ぬるま湯)500mlに対し、食塩4.5g(小さじ1弱)を溶かします。 ※水道水をそのまま使うと細菌感染のリスクがあるため、一度沸騰させるか精製水を使用してください。 |
□ 睡眠と食生活の改善
免疫機能を正常に保つため、十分な睡眠を心がけましょう。また、高タンパク・高脂肪の食事を控え、バランスの良い食事を摂ることで、アレルギー症状が悪化しにくい体づくりをサポートします。
まとめ
花粉症は、適切な時期に適切な治療を開始することで、驚くほど楽に過ごせるようになります。自己判断で市販薬を使い続けるよりも、クリニックへご相談いただくことで、よりご自身に合った副作用の少ない処方が可能です。快適な日常生活を取り戻すために、早めの受診をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. アレルギーの原因は検査で分かりますか?
A. 血液検査でアレルギー検査を行うことができます。これにより、原因がわかればいつから対策を始めるべきかが明確になります。ただし、1項目ごとに値段がかかるため、3割負担であれば症状に合わせた13項目の検査で、診察代と合わせて約5,000円とかなり高額になります。
Q2. 薬を飲むと眠くなりませんか?
A. もともと抗ヒスタミン薬は、脳血流に乗って眠くなる作用があります。しかし、「第2世代抗ヒスタミン薬」は、脳に入りにくい設計になっており、眠気がほとんど出ないタイプが多くあります。お仕事や運転をされる方に合わせた処方が可能です。
Q3. 一番強いアレルギーのお薬は?
A. アレロック(オロパタジン)です。こちらも第2世代抗ヒスタミン薬ですが、現状のアレルギー薬の中では最も眠気が強いものとされています。
Q3. おすすめの花粉症のお薬を教えて下さい。
A. アレグラ(フェキソフェナジン)、ザイザル(レボセチリジン)、ビラノア(先発品のみ)です。
アレグラは副作用が少なく、効果は弱〜中程度で、これで効果が十分な方はお勧めします。ビラノアは同じく副作用が少なく効果は高いため優れていますが、先発品のみで処方代が少し高くなってしまいます。ザイザルは副作用はやや少なく効果が高いためバランスが良く優秀です。
Q4. 子供でも舌下免疫療法は受けられますか?
A. 5歳以上のお子様から受けることが可能です。将来的な喘息の発症予防にもつながると期待されています。
参考文献
- 鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(文献より)
- 環境省:花粉症環境保健マニュアル2022
- 厚生労働省:的確な花粉症の治療のために(第2版)
※本記事は、鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版や環境省の公式情報など上記を参考に、医師が作成しています。


















