味覚・嗅覚の異常
「最近、食事が美味しく感じられない」「においに疎くなった」といった症状はありませんか? 味覚や嗅覚の異常は、単なる不快感だけでなく、食欲不振や栄養不足、さらにはガス漏れや腐敗臭に気づかないといった、生活の質(QOL)や安全性に直結する重要なサインです。
当院では、内科医師の視点から、全身の健康状態と感覚器の相関を重視した診療を行っています。
味覚・嗅覚異常の主な原因と疾患
味と香りは密接に関係しており、これらが合わさることで「風味」として認識されます。
舌・鼻腔・神経・脳のいずれに問題があるのか、それとも全身の問題なのかを考えることが大切です。
① 嗅覚障害(においの異常)
| 分類 | 主な原因・疾患 | 特徴 |
| 呼吸性 | 副鼻腔炎(蓄膿症)、アレルギー性鼻炎 | 鼻の粘膜の腫れや鼻水により、におい成分が神経まで届かない。 |
| 嗅粘膜性 | 風邪・ウイルス感染後(新型コロナ等) | ウイルスがにおいを感じる受容体細胞を、直接攻撃・損傷させる。 |
| 中枢性 | 脳腫瘍、頭部外傷、認知症初期 | 脳の嗅覚中枢にダメージがある。アルツハイマー型の初期症状としても知られる。 |
② 味覚障害(味の異常)
| 主な原因 | 具体的なメカニズム |
| 亜鉛不足 | 味を感じる細胞(味蕾)の再生には亜鉛が必須。偏食や吸収不全で不足する。 |
| 薬剤性 | 血圧の薬(ACE阻害薬)、鎮痛薬、抗不安薬などが亜鉛の排泄を促してしまう。 |
| 全身疾患 | 糖尿病による神経障害、肝・腎機能障害による代謝異常、甲状腺疾患など。 |
| 口腔・心因性 | ドライマウス(口の渇き)、舌炎、過度なストレスによる自律神経の乱れ。 |
「味がしない」の正体?風味障害とは
「甘みや塩味はわかるのに、イチゴの味やコーヒーの香ばしさがわからない」 このような症状は、厳密には味覚の異常ではなく、「風味障害」かもしれません。
私たちは、食べ物の味を以下の2つのルートで感知しています。
- 前鼻腔嗅覚:鼻から直接吸い込む「におい」
- 後鼻腔嗅覚:口の中から喉を通って鼻へ抜ける「香り」
私たちが「美味しい」と感じる情報の約8割は、この後鼻腔嗅覚(口中からの香り)だと言われています。鼻が詰まったり、喉の粘膜が炎症を起こしたりすると、この「鼻へ抜けるルート」が遮断され、味気なさを感じてしまうのです。
セルフチェック: 鼻をつまんで飴を舐めてみてください。甘みは感じるけれど、何の味か(レモンかリンゴか)判別できない場合、原因は味覚神経ではなく「においの通り道」にある可能性が高いと言えます。
注意すべき危険なサイン
単なる風邪の延長ではなく、以下のような症状を伴う場合は、脳神経系や重篤な疾患の可能性があるため、直ちに受診が必要です。
- 急激な発症: ある日突然、全くにおいや味がしなくなった。
- 随伴症状: 激しい頭痛、めまい、手足のしびれ、ろれつが回らない。
- 異臭症: 何を食べても焦げ臭い、あるいは腐敗臭がすると感じる。
- 片側性: 片方の鼻だけにおいがおかしい。
セルフチェックリスト
現在の状況を整理してみましょう。受診時にこれらをお伝えいただくとスムーズです。
- [ ] 風邪をひいた後から症状が続いている
- [ ] 鼻が詰まっている感じが強い
- [ ] 飲んでいる薬の種類が増えた(または変わった)
- [ ] 口の中がネバネバする、乾燥している
- [ ] 甘みだけはわかるが、何の食べ物か判別できない(風味障害の疑い)
治療と改善へのアプローチ
当院では、原因を特定した上で、以下の治療を組み合わせて提案します。
- 薬物療法: 亜鉛製剤の処方、ビタミンB12、漢方薬(当帰芍薬散など)による神経回復の促進。
- 局所治療: ステロイド点鼻薬による粘膜の炎症抑制。
- 生活習慣の指導: 亜鉛を豊富に含む食事の指導や、多剤併用(ポリファーマシー)の見直し。
- 嗅覚リハビリテーション: 強いにおいを意識的に嗅ぐことで神経の再構築を促す訓練。
よくある質問(FAQ)
Q. 亜鉛のサプリを飲めば自力で治せますか?
A. 亜鉛不足が原因であれば有効ですが、自己判断は危険です。過剰摂取による銅欠乏症などの副作用もあるため、まずは血液検査で数値を確認し、医師の管理下で治療することをお勧めします。
Q. 持病の薬が原因で味が変わることはありますか?
A. はい、非常に多いケースです。降圧薬や利尿薬、一部の抗生物質などは、体内の亜鉛と結びついて体外へ排出してしまう「キレート作用」を持つものがあります。お薬手帳をご持参ください。
Q. どのくらい放置しても大丈夫ですか?
A. 神経の損傷が原因の場合、放置期間が長いほど回復率が低下する傾向にあります。発症から2週間〜1ヶ月以内の早期受診が、最も治療効果が高いとされています。





